採用改善に取り組む企業を見ていると、施策は大きく3種類に分かれていた

企業の採用改善をお手伝いする中で、よく聞くのが「採用した後」の話です。応募を増やしたい、求人媒体を見直したい、採用サイトを作りたい。そうした入口の改善ももちろん大切ですが、採用について深く考えていくと、それだけでは解決しない会社がかなりあります。

せっかく採用しても辞めてしまう。毎年同じ人数を補充している。求人広告費は増えているのに、会社全体の人数は増えていない。一方で、それほど頻繁に求人を出しているようには見えないのに、なぜか人手不足に陥りにくい会社もあります。

採用に困っていない企業が普段から気を付けていることや、新しく始めた施策を見たり、さまざまな調査や企業事例を調べたりしていると、定着率を上げる施策は細かく見れば非常に多いものの、大きく3種類に整理できるのではないかと思うようになりました。

一つ目は「辞めたくなる理由を減らす」。二つ目は「入社時のズレと、入社後のつまずきを減らす」。そして三つ目が「この会社に居続ける理由をつくる」です。

今回は、単に「これをやるといい」という施策紹介ではなく、実際に会社へ落とし込むならどうするのか、どのくらいの費用や手間がかかるのか、どんな会社に向いているのかまで考えてみます。

1. まずは「辞めたくなる理由」を減らす

定着率について調べていると、最初は少し拍子抜けするほど普通のところに行き着きます。給与、休日、残業、仕事量です。

2025年版中小企業白書では、賃上げ率が高い企業ほど、直近3年間に採用した従業員の定着率が7割以上である割合が高い傾向が確認されています。人事評価、育成、社内コミュニケーションなどとの関係も見られますが、その前に「普通に働き続けられる条件になっているか」を外すことはできません。

給与は「全員を上げる」前に、どこで負けているかを見る

給与改善は分かりやすい反面、最もコストの大きい施策です。だから「定着率を上げたいから全社員1万円昇給」と考える前に、どの層が辞めているのかを見た方がいいと思います。

入社1年以内が辞めるのか、3〜5年目が辞めるのか。若手だけなのか、管理職手前なのか。競合企業と比べて初任給が低いのか、それとも数年後の昇給が弱いのか。

3〜5年目が辞めている会社で初任給だけを上げても、根本原因には当たらない可能性があります。まず勤続年数別に退職者を並べ、同業・同地域の求人条件と照らし合わせる。給与にお金を使うなら、その後です。

残業削減は「早く帰ろう」ではなく、仕事そのものを減らす

残業も同じです。ただ、「残業を減らしましょう」と呼びかけるだけでは、仕事量が変わらないので社員にしわ寄せが行きます。

会議を一つなくす。二重入力をなくす。毎月作っているが誰も見ていない資料をやめる。特定の人しかできない業務を標準化する。システム化できる作業を探す。

まず部署別の平均残業時間を出し、極端に多い部署を探す。それから、その部署の仕事を一週間分書き出して「なくせる仕事」「簡略化できる仕事」「他の人でもできる仕事」に分ける。ここまでやって初めて、残業削減が施策になります。

金銭的な投資が少なくても始められ、残業代削減や業務効率化にもつながるため、原因が業務量にある企業では費用対効果が高い施策です。

「休暇制度」より、実際に休める仕組みをつくる

有給制度はある。でも誰も使わない。こういう会社なら、新しい休暇制度を追加する前に「なぜ取れないのか」を見た方がいい。

一人が休むと仕事が止まるのなら、業務を二人以上が分かる状態にする。担当者しか知らない情報を共有する。繁忙期には休めないなら、閑散期に取得を促す。上司が一切休まないので部下が休みづらいなら、管理職側から変える。

制度を増やすより、制度を使える状態にする。これもほとんど費用をかけずに始められます。

働き方に少し「選べる余地」をつくる

柔軟な働き方は、職種によってはかなり強い施策です。

Trip.comの1,612人を対象にしたランダム化比較試験では、週2日の在宅勤務を選べるハイブリッド勤務によって離職率が7.2%から4.8%へ低下し、約3分の1減りました。仕事満足度も上昇し、業績や昇進への悪影響は確認されませんでした。

もちろん運送、製造、飲食、介護など、そのまま在宅勤務を導入できない職種もあります。ただ、本質は在宅勤務そのものではなく「生活に合わせて働き方を調整できる余地」だと思います。

希望休を出しやすくする。固定曜日勤務を認める。時差出勤を選べるようにする。育児期間だけ短時間勤務にする。フルタイムしかなかった職種に短時間枠を作る。

大きなお金を使わなくても「選択肢」を増やせる会社なら、検討する価値は高いと思います。

2. 入社時のズレと、入社後のつまずきを減らす

条件を改善しても、それだけでは定着しません。次に見るべきなのが、「そもそも合う人を採れているか」「入社した人が最初につまずいていないか」です。

JILPTの若年者調査でも、若者の職場定着には、正確な情報提供、適切な労働条件、教育訓練、コミュニケーション、職場トラブルの防止などが重要だと整理されています。

求人では、魅力と同じくらい「現実」を伝える

求人広告では、どうしても良いところを書きたくなります。しかし、定着まで考えるなら「応募を増やすこと」だけをゴールにしない方がいい。

繁忙期は忙しい。一人で仕事をする時間が長い。夏場は暑い。細かな確認が多い。覚えるまで時間がかかる。

こうした情報も、合う人を採るためには必要です。

実際に落とし込むなら、求人を作る前に現場社員へ「この仕事を始めた人が想像と違うと感じやすい部分は何か」を聞いてみる。その回答を求人票や採用サイトの「仕事の大変なところ」「向いている人」「一日の流れ」に反映する。

費用はほぼかかりません。採用サイトまで整備する場合は制作費が発生しますが、その情報は次の採用にも使えるため、広告のように一回で消えるものではありません。

最初の3か月を、会社側で設計する

入社後を現場任せにしないことも重要です。

最低限、初日・1週間・1か月・3か月で接点を作る。初日は仕事内容と相談相手を明確にする。1週間後は分からないことを確認する。1か月後は「入社前に聞いていた話との違い」を聞く。3か月後は仕事量、人間関係、成長実感、今後覚えたいことを確認する。

Wiproで行われたフィールド実験では、会社への同化だけを促す従来型オンボーディングではなく、新入社員自身の強みや個性を仕事でどう生かすかに焦点を当てたグループで、最初の6か月の離職が標準的なオンボーディングより32%以上少なくなりました。

つまり、「うちの会社ではこうしてください」だけではなく、「あなたは何が得意で、それをこの仕事でどう生かせそうですか」と聞く。

小さな会社でも十分できます。

教育を「教える人のセンス」に任せない

新人教育も同じです。教育担当によって教える内容が違う会社では、新人側から見ると運になります。

1週間後にできていてほしいこと、1か月後、3か月後にできていてほしいことを簡単に書き出し、本人と教育担当の両方に渡す。

立派な研修システムを作る必要はありません。A4一枚でもいい。

「今日は何を覚えるのか」「今どこまでできているのか」「次に何を覚えるのか」が分かるだけでも、新人側の不安はかなり違います。

3. 「この会社に居続ける理由」をつくる

三つ目が、一番見落としやすい部分かもしれません。

給与も悪くない。休める。人間関係にも大きな問題がない。それでも、人は辞めます。

JILPTの2025年調査では、現在の会社で働き続けている理由として最も多かったのは「仕事内容に興味がある」で76.8%。働きやすい環境66.7%、雇用の安定64.9%、賃金水準46.6%などを上回っています。

つまり定着は、「不満をなくす」だけでは完成しないようです。

何をすれば評価されるのかを見えるようにする

2025年版中小企業白書では、明確・公正な人事評価制度を設けている企業ほど、定着率7割以上の割合が高い傾向があります。

ただし、小規模企業が最初から複雑な人事制度を作る必要はないと思います。

まず職種ごとに、「会社として評価すること」を3〜5項目決める。売上だけなのか、仕事の正確さ、後輩教育、顧客対応、改善提案なども見るのか。そして半年ごとに本人と確認する。

さらに「この評価になれば何が変わるのか」まで伝える。給与なのか、役割なのか、任せる仕事なのか。

社員が欲しいのは評価表そのものではなく、「何を頑張れば次へ進めるのか」という見通しなのだと思います。

「この会社にいた先」を見えるようにする

成長できることと、キャリアが見えることは少し違います。

研修を受けてスキルが増えても、その先の姿が分からなければ、「この会社で成長した先に何があるのか」という疑問は残ります。

小規模企業なら、立派なキャリアパス図を作らなくてもいい。

たとえば営業職なら、「1年目は既存顧客を担当」「3年程度で大型案件や後輩教育」「その先はマネジメントだけでなく、専門営業として大口顧客を担当する道もある」といった形です。

そして給与や役割ともつなげる。

おすすめは、職種ごとにA4一枚の「3年後までの地図」を作ることです。縦に時間、横に「できるようになる仕事」「必要なスキル」「役割」「給与・評価の変化」を並べる。

年に一度は上司とのキャリア面談を行い、「会社が考えているキャリア」と「本人が進みたいキャリア」がズレていないか確認する。

ほとんど金銭コストはかかりません。必要なのは、社員の将来について経営側が考える時間です。

若者のキャリア意識を見ると、転職は労働条件の改善だけでなく、キャリアアップの手段にもなっています。社内に未来が見えなければ、未来を外に探すのは自然なことだと思います。

「やりがいがあります」ではなく、仕事の意味が本人まで返ってくるようにする

やりがいも重要です。ただし、「当社はやりがいのある会社です」と書いても、やりがいは生まれません。

本人が、自分の仕事が何につながったのかを感じられる仕組みが必要です。

お客様から届いた感謝の声を現場にも共有する。制作物が実際に使われている様子を見せる。配送なら、自分たちが運んでいるものが誰の生活を支えているのかを伝える。事務なら、自分の改善によって現場の作業時間がどれだけ減ったのかを数字で返す。

月に一度でも、「最近、私たちの仕事が誰にどう役立ったか」を共有する。

さらに、仕事を任せるときにも「これをやってください」だけではなく、「なぜこれをやるのか」「終わると誰が助かるのか」をセットで伝える。

これだけでも仕事の見え方は変わります。

「仕事内容への興味」が継続理由の上位にあることを考えても、やりがいは福利厚生のように後付けするものではなく、日々の仕事そのものの設計に近いと思います。

会社の未来と、自分の仕事をつなげる

キャリアが「自分はどこへ行くのか」だとすれば、ビジョンは「会社はどこへ行くのか」です。

2025年版中小企業白書では、経営理念やビジョン、経営情報などを従業員へ共有している企業ほど、高定着企業の割合が比較的高い傾向が確認されています。

ただし、「日本一の会社になります」と社長が言うだけでは、社員の日々の仕事とはつながりません。

「3年後にどういう会社になるのか」「そのために今年何をするのか」「その中で、この部署は何を担当するのか」「だからあなたの仕事がなぜ必要なのか」まで落とす。

おすすめは、年に一度ビジョンを発表して終わりではなく、3か月に一度くらい「今どこまで来ているか」を共有することです。

売上目標だけでなく、新しく始めた事業、改善した制度、まだ解決できていない課題も伝える。

経営情報をある程度開くこと自体も、中小企業白書では人材定着との関連が示されています。会社の未来を社員にも共有することで、「経営者だけが知っている会社」から「自分たちが作っている会社」へ少しずつ変わっていくのだと思います。

「なぜ残っているのか」を直接聞く

最後は、一番簡単な施策です。

辞める人には理由を聞くのに、残っている人には理由を聞かない会社が多い。

リクルートワークス研究所の調査では、若手社員のうち、自分が会社を辞めない理由を上司や人事に共有している人は18.9%にとどまりました。共有していない理由で最も多かったのは「聞かれないから」です。

半年に一度、四つくらい聞けばいいと思います。

「この会社で働き続けている一番の理由は何ですか」

「今なくなったら困る会社の良さは何ですか」

「最近、辞めたいと思った瞬間はありましたか」

「今後この会社でやってみたいことはありますか」

そこから、自社で本当に効いている「残る理由」が見えてきます。

リクルートワークス研究所の4,322人の調査でも、若手が辞めない理由には、仕事の価値や意味、成長機会、人間関係、働きやすさ、処遇など複数の要素が確認されています。

費用対効果は、「いくら使ったか」だけでは測れない

ここまで見ると、定着施策にはかなりお金がかかるものと、ほとんどかからないものがあります。

給与を上げる。人員を増やす。大規模なシステムを導入する。これは大きな投資です。

一方、退職理由を集計する、社員へ残る理由を聞く、求人票を見直す、1か月面談をする、キャリアマップを一枚作る、評価基準を言語化する、会社のビジョンを四半期ごとに共有する、といった施策は、ほとんど金銭コストをかけずに始められます。

だから、施策の費用対効果を見るなら、まず自社の「一人辞めたときのコスト」を考えた方がいいと思います。

求人広告、採用担当の時間、面接、入社手続き、教育する社員の時間、独り立ちまでの生産性、欠員中の残業。これらをざっくりでも金額にする。

そのうえで、施策にかかった費用と、離職を何人減らせたかを比較する。

さらに、3か月・6か月・1年の定着率を施策導入前後で比較する。どの部署で改善したかも見る。

これをやらないと、「新しい福利厚生を始めたけれど、本当に意味があったのか分からない」という状態になります。

重要なのは、施策ではなく「原因と施策をつなげること」

ここまで具体的に見てきましたが、「これを全部やればいい」という結論ではありません。

入社3か月で辞めている会社なら、給与より採用時のミスマッチやオンボーディングを見るべきかもしれない。3〜5年目が辞めているなら、評価、昇給、キャリアを見る。待遇は悪くないのに若手が辞めるなら、仕事の意味や会社の未来が見えているか確認する。

大事なのは、最初に施策を選ばないことです。

誰が、いつ、なぜ辞めているのかを見る。

残っている人に、なぜ残っているのか聞く。

その理由を「辞めたくなる理由」「入社後のつまずき」「居続ける理由」のどこにあるか整理する。

そこで初めて、施策を決める。

そして半年後、一年後に数字で確認する。

そして、改善したことは「伝える」ところまでが施策

最後に、かなり重要だと思っていることがあります。

会社が給与を改善した。残業を減らした。教育制度を作った。キャリアパスを整理した。ビジョンを作った。

でも、社員がそれを知らなければ意味は半減します。

求職者にも同じです。

「働きやすい会社です」「成長できる会社です」「やりがいがあります」という言葉だけではなく、何を変えたのか、どこまで改善したのか、これからどこを目指しているのかを具体的に伝える。

それは採用サイトでもいいし、社内報でもいい。面接でも、全社会議でも、上司との面談でもいい。

制度を作る。

実際に使える状態にする。

結果を測る。

そして、その変化を正確に伝える。

ここまでやって初めて、一つの改善施策が完成するのではないかと思います。

この「会社が改善していることや、これから目指している姿を、社員や求職者へどう伝えるべきなのか」については、また別の記事で詳しく考えてみます。

結局、定着率改善でやることは3つだった

いろいろ調べてみても、目的は大きく三つです。

辞めたくなる理由を減らす。

入社時のズレと、入社後のつまずきを減らす。

そして、ここに居続ける理由を育てる。

三つ目の「居続ける理由」には、評価、キャリア、仕事のやりがい、会社のビジョン、人間関係などが入ります。

定着率改善というと、福利厚生や1on1など「何を導入するか」から考えがちです。

でも、本当に必要なのは施策の数ではなく、自社の人がなぜ辞め、なぜ残っているのかを理解することです。

その理由に合った施策を選び、会社の中へ具体的に落とし込み、数字で効果を確認し、改善したことを正確に伝える。

採用に困らない体質をつくるために必要なのは、「定着施策に詳しい会社」になることではなく、「自社の社員がここで働き続ける理由を理解している会社」になることなのだと思います。

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