どうやら、「人が来る会社」より「人が辞めない会社」のほうが強いらしい

採用サイトをつくったり、求人の見せ方を考えたり、企業から「人が採れない」という相談を受けたり。いろいろな会社の採用課題に触れていると、以前から少し不思議に思っていたことがあります。

どうやら、いつも採用に困っている会社と、そうでもない会社がある。

もちろん、どの会社も採用にまったく困らないわけではありません。人が急に辞めれば困りますし、新しい事業を始めれば人が必要になります。それでも、数年単位で見ていると、ずっと「人が足りない」と言い続けている会社がある一方で、必要なときに比較的自然と人が入り、長く働き、採用が経営上の大問題になりにくい会社もあります。

この違いは何なのだろう。

最初は単純に、条件の差だと思っていました。

給料が高い。休みが多い。残業が少ない。福利厚生が充実している。知名度がある。駅から近い。そういう会社なら応募が集まりやすいのは当然です。

実際、調べてみても条件面はやはり重要でした。2025年版中小企業白書では、賃上げ率が高い事業者ほど、直近3年間に採用した従業員の定着率が高い傾向が確認されています。人材確保についても、賃金だけでなく、人材育成や人事評価、働き方、社内コミュニケーションなど、職場そのものを整えることの重要性が指摘されています。

「やっぱり条件か」と思う。

ところが、実際の会社を見ていると、それだけではどうも説明がつきません。

条件が飛び抜けて良いわけでもないのに、人が長く働いている会社がある。地方にあり、知名度もそれほどなく、仕事内容だって決して楽とは言えない。それでも採用に極端には困っていない。

反対に、給与を上げても、求人広告にお金をかけても、ずっと採用に苦戦している会社もあります。

どうやら、採用に困るかどうかは「求人条件が良いか悪いか」だけでは決まらないようです。

そこで今回は、これまでさまざまな企業の採用課題について考えてきた経験と、国の調査や企業事例を照らし合わせながら、**「採用に困らない会社とは、いったいどんな会社なのか」**をじっくり考えてみることにしました。

まず、「採用に困らない会社」を決めておきたい

そもそも、何をもって「採用に困らない」とするのか。

応募がたくさん来る会社でしょうか。

たとえば100人から応募があり、10人採用したとします。数字だけ見れば、とても採用力のある会社に見えます。

ところが、その10人のうち8人が一年以内に辞め、翌年また10人を採用しなければならないとしたらどうでしょう。

毎年、大量の求人広告費をかけ、大量に面接し、大量に採用し、大量に辞めていく。それは本当に「採用に困っていない会社」と言えるのか。

少し違う気がします。

逆に、年間の応募はそれほど多くなくても、社員がなかなか辞めない会社があります。たまに一人辞めても、社員の紹介や以前から会社を知っていた人から応募があり、数人と話して一人採用できる。

こちらの方が、ずっと採用に困っていないように見えます。

そこでこの記事では、

必要なときに自社に合う人と出会うことができ、採用した人が長く働き、毎回ゼロから採用活動をやり直さなくて済む会社

を「採用に困らない会社」と考えてみます。

そう定義すると、違いが少しずつ見えてきました。

第一の条件。待遇と「採用導線」は、やっぱり前提になる

まず、身も蓋もない話から始めると、条件が極端に悪ければやはり難しい。

相場より大幅に低い給与。休日が少ない。長時間労働。仕事内容に対して待遇が見合っていない。

それを「採用ブランディング」で解決しようとしても無理があります。

ここはクリエイティブではどうにもならない部分です。

採用サイトを格好良くしたところで、条件そのものが求職者にとって選びづらいものであれば、応募につながらない。当然です。

もう一つ、条件と並んで前提になると思うのが、採用導線がきちんと存在していることです。

求人媒体で会社を知る。会社名を検索する。ホームページを見る。採用ページを見る。社員や仕事内容について調べる。条件を確認する。不安なことを調べる。そのうえで応募する。

求職者は、一つの求人票だけを見て意思決定しているとは限りません。

ところが企業側を見ると、意外とこの途中が途切れています。

求人広告はある。でも、公式サイトに採用情報がない。

採用ページはある。でも「募集要項」しか載っていない。

会社名を検索しても、働いている人の顔も、仕事内容も、会社の考え方も分からない。

これでは、興味を持ってくれた人がいたとしても、応募を決断するための材料がありません。

厚生労働省も、仕事内容や職場環境、働き方などの情報を求職者へ提供することは、入社前後のミスマッチを減らし、定着につなげるだけでなく、自社に合った応募者を増やすうえでも重要だとしています。

つまり、最低限、

選ばれるに値する条件があること。
そして、それを知ってもらい、理解し、応募できる導線があること。

ここまでは採用に困らないための「前提」と考えてよさそうです。

ただ、ここまで整えても、まだ採用に困る会社はあります。

そこで次に気になったのが、採用の「入口」ではなく「出口」でした。

第二の分岐点。「人が来る」より、「人が辞めない」のほうが大きいのではないか

採用について相談を受けると、どうしても話の中心は「どうすれば応募が増えるか」になります。

求人広告を変える。写真を変える。採用サイトをつくる。SNSを始める。

つまり、「入口」を広くする話です。

もちろん必要です。

でも、採用に困らない会社を考え続けていると、別の見方が浮かんできます。

もしかすると、採用に困らない会社は、人がたくさん来るから困らないのではなく、人があまり辞めないから困らないのではないか。

この方が、どうもしっくりきます。

仮に社員20人の会社があるとします。

年間5人が辞める会社なら、現在の人数を維持するだけで毎年5人採用しなければなりません。

一方、年間1人しか辞めない会社なら、1人採用できれば人数を維持できます。

前者が5人採用し、後者が2人採用したとしたら、表面だけを見れば前者の方が「採用力のある会社」に見えます。

でも実際には、後者の方が圧倒的に採用に困りにくい。

採用力を測るなら、「何人入ったか」と同じくらい、何人残ったかを見る必要があるのかもしれません。

そしてこの感覚は、調査ともある程度重なります。

2025年版中小企業白書では、人材が「不足していない」企業では、直近3年間に採用した従業員の定着率が「7割以上」とする割合が高く、人材が不足している企業では「3割未満」の割合が高いことが確認されています。白書自身も、人材確保には採用した人材の定着率を高めることが重要だとしています。

もちろん、この数字だけで「定着率を上げれば必ず採用に困らなくなる」とは言えません。

人が足りないから現場が忙しくなり辞めるのかもしれないし、人が辞めるから人手不足になっているのかもしれない。

おそらく両方が絡み合っています。

でも少なくとも、採用難を“応募数だけの問題”として考えるのは危なそうだということは見えてきます。

そして、定着率を調べていくと、また採用とは一見関係なさそうな話が出てきます。

人材育成に力を入れている会社。評価制度がある会社。社内コミュニケーションが円滑な会社。経営理念やビジョンを社員と共有している会社。

こうした企業では、相対的に定着率が高い傾向が確認されています。

つまり、採用について本気で考え始めると、いつの間にか「求人」の話ではなくなってくる。

上司との関係、教育、評価、働き方、給与、仕事への納得感、会社の方向性。

採用の問題だと思って入口を直していたら、本当の穴はバケツの底に開いていた。

そんな会社もありそうです。

人を5人増やす方法を考える前に、毎年3人辞めているなら、その3人が辞めなくて済む会社にする。

それは、採用広告を改善する以上に強力な「採用対策」になる可能性があります。

だから採用に困らない体質をつくるなら、まず、

「どうしたら応募が増えるか?」

だけではなく、

「なぜ、うちの社員は辞めるのか?」
「逆に、長くいる社員は、なぜ残っているのか?」

を聞いた方がいい。

ここに、かなり大きなヒントが隠れている気がします。

第三の違い。採用活動が「消費」で終わる会社と、「資産」になる会社がある

そしてもう一つ。

いろいろな会社を見ていて、採用に困らない会社には、もう一つ特徴があるように思います。

一回の採用活動でつくったものが、次の採用にも残っている。

ということです。

たとえば、一人の社員にインタビューをする。

その人が「なぜ入社したのか」「仕事のどこが大変なのか」「なぜ続けているのか」を話す。

それを採用サイトに掲載する。

半年後、その記事を見た別の求職者が会社を知る。

一年後、新しく入った社員にもインタビューする。

社員の声が二人分になる。

仕事風景を撮影する。

FAQを増やす。

実際に応募者から聞かれた質問を採用サイトに追加する。

求人を繰り返すたびに、

会社について求職者が判断できる情報が少しずつ増えていく。

これは、次回の採用にも使えます。

社員の紹介制度が定着すれば、人とのつながりが残る。

SNSを続ければ、以前から会社を知っている人が増える。

採用サイトを改善していけば、検索した人が見る情報が増える。

面接でよく聞かれる質問を蓄積すれば、次の求人票やFAQを改善できる。

早期退職の理由を記録すれば、次の採用で伝えておくべきことが分かる。

こうして考えると、採用活動には、終わった瞬間に消えてしまうものと、会社に残るものがあります。

求人広告への掲載費は、多くの場合、掲載を止めれば効果も止まります。

でも、社員の言葉、会社の写真、採用サイト、仕事の説明、FAQ、候補者との接点、社内の教育制度、採用データは残ります。

ここでは、こうした次の採用を少し楽にしてくれるものを、まとめて**「採用資産」**と呼んでみたいと思います。

採用に困る会社は、人が必要になるたびに求人広告を出し、採用できたら終了する。

次に人が必要になったとき、またほぼゼロから始める。

一方で、採用に困りにくい会社は、一回採用するたびに何かが残る。

最初の採用では、採用ページができた。

次は社員インタビューが増えた。

その次は写真が増えた。

応募者の質問からFAQが充実した。

社員から紹介が生まれるようになった。

SNSを見続けてくれている人も増えた。

そして、入社した人が辞めずに働き続ければ、その人自身が次の採用資産になります。

毎回少しずつ、次の採用が楽になる。

これには、どこか「複利」に似たところがあります。

一年目はほとんど差がない。

でも、5年続けた会社と、その都度ゼロから求人広告だけを出してきた会社では、候補者が会社について知るための情報量も、社内に残っている採用ノウハウも、人とのつながりも、かなり違っているはずです。

もしかすると、僕らが外から見て、

「あの会社、なぜか採用に困らないな」

と感じている会社の正体は、この積み重ねなのかもしれません。

では、「採用に困らない体質」はどう作るのか

ここまで考えてみると、やるべきことの順番も少し見えてきます。

まずは、選ばれる前提を整える。

給与、休日、働き方などの条件を確認する。同業他社と比較して、明らかに選びづらい状態になっていないかを見る。そして求人媒体から採用サイト、応募までの導線をつなぐ。会社名を検索した求職者が「ここで働くとどうなるのか」を判断できる状態をつくる。

次に、穴を塞ぐ。

過去数年間で、何人採用し、何人辞めたのか。いつ辞めたのか。なぜ辞めたのか。一方で、長くいる社員はなぜ残っているのか。

採用人数だけでなく、定着を見る。

そこで職場環境、教育、評価、コミュニケーション、仕事内容と入社前の説明とのズレなどに問題が見つかったなら、採用広告より先にそこを直した方がいいかもしれません。

そして最後に、採用活動を資産にする。

採用するたびに、

「今回の活動から、次回に何を残せるだろう」

と考える。

社員の言葉を残す。

写真を残す。

候補者から出た質問を残す。

求人の反応を残す。

退職理由を残す。

会社の日常を発信する。

採用サイトを少しずつ改善する。

一つ一つは、それほど大きなことではありません。

でも、それが数年積み重なると、採用は「人が辞めるたびにゼロから始めるイベント」ではなくなっていきます。

結局、「採用に困らない会社」とは何だったのか

最初は、条件が良い会社なのだと思っていました。

調べてみると、それは間違いではありませんでした。

待遇や働き方は重要です。求職者が会社について理解し、応募できる採用導線も必要です。

でも、それだけではありませんでした。

次に見えてきたのが、定着です。

採用に困らない会社は、人を集める力が強いだけではなく、そもそも採用しなければならない人数が少ない。

人が辞めない。

だから、毎年大量に補充しなくていい。

そして最後に、その会社が採用活動をするたびに、次の採用に使えるものが少しずつ残っている。

採用サイト。

社員の声。

会社の写真。

求職者からの認知。

紹介。

採用ノウハウ。

そして何より、その会社で長く働いている社員。

こうした「採用資産」が積み上がっている。

つまり、採用に困らない体質とは、

「良い条件を用意して、応募を集めること」だけではなく、
人が入りやすく、辞めにくく、一度の採用が次の採用につながっていく構造を会社の中につくること

なのではないかと思います。

求人広告を改善することも大切です。

採用サイトを作ることも大切です。

でも、本当に採用に困らない会社をつくるなら、目の前の一人を採用することだけではなく、

「今回の採用が終わったあと、この会社には何が残るだろう?」

と考えてみる。

そこが、採用に追われ続ける会社と、少しずつ採用が楽になっていく会社の分かれ道なのかもしれません。

RECRUIT RESEARCH

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