1. 「魅力」はあるのに、決め手にならない理由
「商品は悪くないと思うんです。」この言葉は、努力している会社ほど口にします。実際、仕事は丁寧で、品質にも自信がある。お客様に不誠実なことはしていない。にもかかわらず、問い合わせが増えない。見積もりが通らない。採用が決まらない。そして最後の一歩で、なぜか“選ばれない”。この現象は、商品力の問題として片付けると、いつまでも終わりません。
なぜなら、魅力がある会社ほどすでに努力を重ねています。広告を検討し、SNSを更新し、ホームページを作り直し、チラシを配り、紹介をお願いする。それでも伸びないとき、追加の努力は“点”を増やす方向に寄りがちです。けれど選ばれるかどうかは、点の合計ではなく、点と点がつながっているかで決まります。
選ばれない理由は、魅力が“ない”からじゃない。
魅力が「決断に至る体験」になっていないだけだ。
人は合理的に選ぶようでいて、最後は感情で決めます。ただしその感情は、気分ではありません。出会い方、理解のされ方、信頼の積み重ね、比較のしやすさ、決断のしやすさ。この順番が整っていると、人は自然に決められる。逆に順番が乱れていると、どれだけ良いものでも「よさそう」で止まります。つまり、決断できない。決断できないものは、選ばれない。
2. 選ばれない会社に共通する3つの構造
選ばれないにはパターンがあります。業種が変わっても驚くほど似ています。飲食、美容、工務店、運送、士業、製造、スクール。どこでも起きる。ここでは「構造」として捉え直します。構造で捉えれば、感覚やセンスの話ではなく、再現可能な改善になります。
構造①:接点が増えるほど、印象がバラける
名刺、SNS、ホームページ、チラシ、Googleマップ、採用ページ、見積書、提案資料、現場の雰囲気。接点は多いほど良いように見えますが、問題は“同じ方向に向いているか”です。接点ごとに語っている価値が微妙に違うと、受け手の頭の中で統合できず、「結局どんな会社なのか」がぼやけます。
ここで厄介なのは、作り手側にバラけている自覚がないことです。どれも自分たちの言葉で書いているし、どれも真面目に伝えている。しかし受け手からすると、熱量の方向が違う、約束している未来が違う、雰囲気が違う。小さなズレが積み重なると、信頼は増えません。判断が難しくなるだけです。
構造②:強みが“説明”になっていて、“体験”になっていない
「丁寧」「高品質」「迅速」「地域密着」「実績多数」。否定しづらい言葉は便利ですが、印象が残りにくい。強みは本来、相手の行動と感情を変えるはずです。問い合わせる前の不安が軽くなる。比較の軸が整理される。「ここなら大丈夫」と思える根拠が手に入る。こうした変化が起きたとき、強みは説明から体験に変わります。
構造③:決断に必要な材料が、最後まで揃わない
ユーザーが決めるために必要なのは、情報量ではありません。「この順番でわかれば決められる」という形です。多くのサイトや資料は、作り手が伝えたい順番で並んでいます。しかし人の意思決定は、だいたい同じ流れです。まず自分の悩みと関係あるか、次に理解できるか、その後に信用できるか、最後に比較できるか・問い合わせや応募がしやすいか。順番が崩れていると疲れます。疲れると決断は先延ばしになり、先延ばしは不採用と同じです。
「判断不能」になって消えていく。 — 構造としての「選ばれない」
3. 体験設計とは何か
体験設計は、演出や派手さの話ではありません。もっと地味で、もっと本質的です。体験設計とは、ひと言で言えば「決断に至るまでの心理変化の順番を整えること」。出会い(認知)→理解→信頼→比較→行動(問い合わせ・応募・購入)。この流れの中で、どの媒体がどの役割を持つのかを決め、矛盾なくつなげる。そして受け手の頭の中で一つの像としてまとまるように整える。これが体験設計です。
人はあなたの会社を毎日見ていません。たまにしか会わない。しかも他社とも比較している。その状況で選ばれるためには、接点のたびに「同じ方向の安心」を積み上げる必要があります。この積み上げが偶然に任されていると、どこかで崩れます。だから設計する。
ここで大事なのは、体験設計は“媒体別最適”ではないということです。ホームページだけ美しくしても、名刺が雑なら崩れます。チラシが良くても、問い合わせ後の対応が不安なら止まります。体験は、最も弱い接点に引っ張られる。だから全体の流れとして整える必要がある。
デザインは、その導線を“目に見える形”にする手段です。目的ではありません。
4. 体験が整うと、集客・採用・営業が同時に良くなる
「集客」「採用」「営業」は、別々の問題に見えます。でも体験設計の視点で見ると根っこは同じです。どれも“人が決断するまでの流れ”だから。集客が伸びない会社は、出会いから問い合わせまでの体験が途切れています。採用が決まらない会社は、応募から入社後までの体験が曖昧です。営業が通らない会社は、比較の軸と決め手が相手の中に作れていません。つまり体験のどこかで不安が勝っている。不安が勝つと、人は動けません。
逆に体験が整うと何が起きるか。説明の量が減るのに、決まるようになります。それは言葉が上手くなったからではありません。判断がラクになったからです。受け手が「この順番で理解できれば決められる」というレールを手に入れると、比較がスムーズになります。そして問い合わせや応募は「迷い」ではなく「確認」になります。
特に中小企業は広告で押し切れない。だからこそ体験設計で「納得の一本道」を作る価値が大きい。ここが整うと、SNSの投稿も、チラシも、サイトも、同じ方向を向いて意味を持ち始めます。体験設計が底上げとして効く理由はここにあります。
5. 体験設計のはじめ方
体験設計は、いきなり大改造しなくて大丈夫です。大事なのは「どこで止まっているか(離脱地点)」を見つけること。止まっている地点が分かれば、直す場所は自然に決まります。ここからは現場で使える順番で書きます。
STEP1:接点を棚卸しする(現実を出す)
まずは見えている接点を全部書き出します。名刺、チラシ、サイト、SNS、Googleマップ、採用ページ、見積書、提案資料、店舗、現場対応。そして“やっている順番”も書きます。ここで「本当はどの順番で見られているか」を想像するとズレが出ます。このズレが改善点の宝庫です。
STEP2:媒体ごとの役割を決める(何を変えるかを決める)
次に接点ごとに役割を決めます。すべての媒体で全部説明しようとすると全部薄くなります。体験設計は媒体に役割を持たせます。SNSは親近感、サイトは信頼と比較、名刺は記憶と再接触。こうして役割が決まると、言葉が絞れます。絞れると強くなります。
STEP3:決断に必要な材料を心理順で並べる(順番を整える)
決断に必要な材料は、悩みの共感、解決の筋、実例、料金や条件、進め方、安心材料、問い合わせのしやすさ。これらを受け手の心理順で並べ直します。そして途中で不安が出るところに、先回りで答えを置きます。この“先回り”が体験設計の肝です。
STEP4:一本の導線に束ねる(バラバラをやめる)
最後に入口を増やすのではなく、入口を束ねます。入口が多いのは悪くない。ただし着地が弱いと、流入が増えるほど迷いも増えます。だから特集ページのような核に集める。入口記事から特集へ、特集から関連記事へ、関連記事からサービスへ。そして相談という逃げ道も用意する。これが最強の入口になります。
6. 相談・依頼の前に知ってほしいこと
体験設計は魔法ではありません。でも構造を見誤らなければ、確実に効きます。多くの場合、必要なのは全面改修ではなく要所の整備です。入口の言葉、比較のしやすさ、問い合わせまでの不安。この3点が整うだけで、数字が動き始めることは珍しくありません。
studio MONDAY BLUEは、紙・Web・リアルを横断して設計します。だからこそ、どこか一箇所を美しくするより、体験の流れを整えて「決められる状態」を作ることを優先します。もし今、「良いはずなのに選ばれない」という違和感があるなら、それは体験設計でほどける可能性が高い。
いきなり依頼しなくても大丈夫です。まず状況を聞かせてください。どこで止まっているかが分かれば、やるべきことが絞れます。絞れれば、最小の手数で最大の効果が狙えます。
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