最初にしたのは、デザインを考えることではなく、12曲を聴くことでした。 1曲ずつ個別のイメージを探す前に、アルバムを通して何が流れているのかを掴む必要があると考えたからです。
LISTEN FIRSTまず、12曲すべてを聴く。
制作に入るにあたり、各曲で実際に使用されたギターをビジュアルの中でもきちんと扱いたかったため、こちらから使用ギターの写真やモデルが分かる資料の共有をお願いしました。 そのうえで、Visual Direction Sheetと合わせて全12曲を通して聴き、曲ごとの情景より先に、アルバム全体の感情の動きを整理していきました。
聴き進めるほどに感じたのは、12曲が12の別世界に分かれているのではなく、ひとつの精神世界の中で状態だけが変化していくような感覚でした。 外へ向かう高揚、混沌、突破、静けさ、祈り、希望、そして再創造。場所や時間帯は変わっても、その奥には同じ人の精神の流れが続いている。 とくに作品全体には、大きく爆発する力というより、内側に蓄えられた静かなエネルギーがあるように感じました。
そこでビジュアルも、曲ごとに画風まで変えるのではなく、全体をリアルさを残したシェイプアート風のイラストタッチで統一することを提案しました。 写真ほど現実そのものではなく、抽象画ほど意味を離しすぎない。現実に存在するギターや風景を土台にしながら、精神世界として少しだけ現実から浮かせるための距離感です。
同じ世界と、別の精神状態。
この考え方が、ジャケット、ティザー、Canvasをつなぐ基準になりました。 12曲を象徴する12弦ギター。そのサウンドホールには方位磁針を置き、弦とネックは遠くへ続く道のように伸ばしています。 ギターは単なる被写体ではなく、アルバムのすべてを通過してきた「語り手」です。
「12本の弦で12曲を束ねる」という発想から、ジャケットを一つの起点として設計しました。 海、岬、太古の遺構、光といった風景は、具体的な観光地を描くためのものではありません。 旅、祈り、再創造といった感情が存在できる場所としてつくっています。 コンパスが進む方向を示し、弦がその先へ続いていく。タイトルの意味とビジュアルの構造が同じになることを目指しました。
TEASER / SPOTIFY CANVAS一枚の世界を、時間と12の視点へ広げる。
ティザーでは、この精神の流れを時間軸へ置き換えています。 旅支度を終えるようにギターケースを閉じるところから始まり、異なる景色と精神状態を通過し、作品の精神的な中心である「PRAY」へ向かう。 そして最後は、アルバムジャケットの世界へ辿り着きます。 商品を説明する短い広告ではなく、アルバムを聴く前に入る「プロローグ」として構成しました。
Spotify Canvasは全12曲分を制作しました。 ここでも「12個の別作品」をつくるのではなく、同じ精神世界の中にある12の状態として設計しています。 実際に各曲で使われたギターを軸に、海辺、都市、夜、乾いた大地、祈りの場、光の差す場所へと景色を変化させました。
Canvasは音楽の後ろで繰り返し再生されるため、映像が主役になりすぎないことも重要でした。 ギターの画面占有率、背景の余白、光の強さ、動きの量、ループのつながりを曲ごとに調整しながら、視覚的には違う景色を持たせつつ、再生中には自然と意識が音へ戻るバランスを探っています。
全12曲のSpotify Canvas。静止状態でもビジュアルを確認でき、クリックするとその場でループ映像を再生できます。
制作物を揃えるのではなく、世界を揃える。
ジャケットは一枚の静止画、ティザーは時間のある映像、Canvasは8秒以内の縦型ループです。 それぞれ役割も比率も違います。だからこそ、一枚のデザインをサイズ違いで使い回すのではなく、「同じ世界と、別の精神状態」という考え方だけを共通の軸として、媒体ごとに表現を翻訳しました。
最終的に揃ったのは、ジャケット、ティザー、Canvasという制作物の集合ではなく、どこから触れても『Compass of Strings』だと分かる一つの世界です。 音楽を聴いて受け取ったものから、ビジュアルのルールをつくり、それを複数の接点へ展開する。今回のプロジェクトは、MONDAY BLUEの仕事の進め方がよく表れた事例になりました。
- ALBUM ARTWORK
- 3000×3000を中心に、SNS・プロモーション用の縦型比率も展開。PNG / JPG / PSD。
- TEASER FILM
- 15秒版・30秒版。物語構成、モーション、編集、音量・質感調整まで担当。
- SPOTIFY CANVAS
- 全12曲分。各曲固有の精神状態と、アルバム全体の統一した世界観を両立。
「イメージ通りに仕上がっており、大変満足しております。」
最終的には、短期的なプロモーション素材にとどまらず、アルバムの楽曲と世界観を長く伝えていくための資産として活用していく、との言葉をいただきました。